正解のない現場課題を、みんなで考える|福島県病院薬剤師会でケースメソッドを実施しました

2026年10月26日
導入事例

2026年10月25日、福島県病院薬剤師会 会津支部学術講演会「病院薬剤師Meetup 2026」にて、病院薬剤師の先生方を対象とした研修を実施しました。

今回の研修では、メンバーの主体性を引き出し、チームとして薬剤業務を推進するためのマネジメントについて、講義だけではなく、個人ワークやグループディスカッション、ケースメソッドを通して考えました。

特に後半では、実際の病院薬剤部で起こり得るケースを使い、「自分が病棟リーダーだったらどう対応するか」を参加者全員で考えました。

「Aさんは問題なのか?」ではなく、「自分ならどう判断するか」

今回扱ったのは、高い専門性を持ち、医師や看護師からも頼られている薬剤師Aさんのケースです。

Aさんは、複雑ながん薬物療法にも対応でき、患者さんや病棟に大きく貢献しています。一方で、長年の経験から身につけた「どの情報を集め、何を重視し、どう判断するのか」という思考の過程は、周囲に十分共有されていません。

そのため、Aさんがいるときには難しい症例にも迅速に対応できる一方、Aさんが不在だと判断を保留する場面が生じています。また、周囲も「Aさんに任せた方が早い」と考えることで、他のメンバーが経験する機会が少なくなっていました。

ただし、Aさん自身は後輩育成を否定しているわけではありません。「まず自分で調べて考えることが大切」と考えており、自分の得意なことで患者さんや病棟に貢献したいという思いもあります。

つまり、誰か一人が明確に「悪い」ケースではありません。

だからこそ参加者には、
「あなたが病棟リーダーなら、この状況にどう対応しますか」
「その対応を選んだのはなぜですか。何を重視して判断しましたか」
という二つの問いを投げかけました。

同じケースでも、判断は一つではない

ケースメソッドを行ってみると、参加者からさまざまな意見が出ました。

Aさん本人にどう働きかけるのか。後輩であるBさんに何を経験してもらうのか。Aさんの専門性をチームにどう還元するのか。病棟リーダーとしてどこまで介入するのか。

同じケースを読んでいても、参加者によって着目するポイントや優先順位は異なります。

そこで今回は、出された意見をホワイトボードに書き出しながら、
「なぜ、その対応を選んだのか」
「別の立場から見ると、どう見えるのか」
をさらに問いかけていきました。

一つの正解にまとめることが目的ではありません。

むしろ、自分とは異なる判断に触れたときに、「そういう見方もあるのか」「私はここを重視していたんだ」と気づくことに、ケースメソッドの大きな価値があります。

頭の中にある「判断基準」を、言葉にしてみる

日々の仕事では、私たちは多くのことを瞬時に判断しています。

しかし、「なぜそう判断したのですか」と聞かれると、意外と言葉にするのが難しいことがあります。

経験を重ねるほど、「なんとなくこちらだと思う」「これまでの経験上、こうした方がいい」と判断できることが増える一方、その判断の背景にある考え方は、自分自身でも意識していないことがあります。

ケースメソッドでは、いったん立ち止まって、
「私は何を見ていたのか」
「なぜ、その対応を選んだのか」
を言葉にします。

さらに、それを他の参加者の判断と比較することで、自分自身の判断の特徴も見えてきます。

今回の研修でも、参加者の先生方から次々と意見が出され、ホワイトボードいっぱいにそれぞれの考えが並びました。

同じケースをみんなで考えることで、一人で考えていたときには見えていなかった視点が加わり、議論がさらに深まっていきました。

ケースメソッドは、「現場で考える力」を練習する方法

病院薬剤師が直面する問題には、必ずしも一つの正解があるわけではありません。

専門性の高い職員に、どこまで後輩育成を求めるのか。本人の強みを活かしながら、チーム全体の力をどう高めるのか。短期的な業務効率と、長期的な人材育成をどう両立するのか。

実際の現場では、そのときの状況やメンバーによって、必要な判断は変わります。

だからこそ、研修で「正解」を覚えるだけでは十分ではありません。

ケースを通して、自分で考える。他者の判断を聞く。そして、「なぜそう考えたのか」を言語化する。

このプロセスを繰り返すことで、別の問題に直面したときにも、自分なりに状況を捉え、判断できる力につながっていきます。

pharmakeでは、知識を一方的にお伝えするだけではなく、参加者自身が考え、経験を持ち寄り、互いの判断から学ぶ研修を大切にしています。

今回のケースメソッドでも、参加者一人ひとりが持っている経験や判断が、他の参加者にとっての学習資源になりました。

そうした対話の中から、現場で使える判断力を育てていくことも、病院薬剤師の人材育成における一つの方法だと考えています。
福島県病院薬剤師会 会津支部の委員の先生方と