「もっと早く」と「もっと丁寧に」の間で迷ったら?仕事の質と量をどう決めるか
「もう少し早く仕事を終えてほしい」
一方で、別の職員には「もう少し丁寧に確認してほしい」。
病院薬剤部の管理職として、この両方を感じることはないでしょうか。
丁寧に仕事をすることは大切です。しかし、勤務時間には限りがあります。一つの仕事に十分な時間をかければ、その分、ほかの仕事に使える時間は減ります。
では、職員に「もっと早く」「もっと丁寧に」と求めるとき、何を基準に判断すればよいのでしょうか。
今回は、仕事の「質」と「量」の線引きを、時間の使い方と組織として求める仕事の水準という2つの観点から考えます。
同じ期限でも「時間の感じ方」は人によって違う
例えば、金曜日が締め切りの仕事があるとします。
月曜日のうちに終わらせておきたい人もいれば、じっくり情報を集めて進めたい人もいます。「木曜日から始めても間に合う」と考える人もいるでしょう。
同じ期限を共有していても、時間に対する考え方や仕事の進め方は人によって異なります。
これは、単純に「やる気があるか」「仕事ができるか」という問題ではありません。時間をどれほど切迫したものとして捉えるかには個人差があります。
早く取りかかる人が必ずしも仕事のできる人とは限りませんし、ゆっくり進める人が必ずしも丁寧な人とも限りません。
問題になるのは、それぞれの時間感覚が違うまま、チームで仕事をするときです。
「なぜまだ準備していないの?」
「なぜそんなに急かすの?」
「締め切りには間に合うんだから問題ないでしょう」
それぞれには、それぞれの理由があります。しかし、この状態ではチーム全体の優先順位が揃わず、特定の職員に調整の負担が集中することもあります。
問題は「誰の時間感覚が正しいか」ではない
こうしたときに、「もっと早くやるべき」「そこまで急がなくてもいい」と個人の時間感覚を変えようとしても、なかなかうまくいきません。
重要なのは、誰の時間感覚が正しいかを決めることではなく、「このチームでは、いつ、何を、どこまで進める必要があるのか」を揃えることです。
例えば、金曜日までに完成させる仕事なら、「木曜日までに下書きを作り、金曜日に確認する」と中間目標を決める。
今日中に終える仕事と、明日でもよい仕事を分け、限られた時間を何に使うのかを決める。
Aさんの作業が終わらなければBさんが次の作業を始められないのであれば、その依存関係も踏まえて仕事のペースを調整する。
このように、チームとして仕事の時間を調整するリーダーの行動は「時間調整型リーダーシップ(Temporal Leadership)」と呼ばれます。
時間調整型リーダーシップは「急がせること」ではない
時間調整型リーダーシップというと、「もっと早く仕事をさせること」のように聞こえるかもしれません。
しかし、目的は単にスピードを上げることではありません。
チームとして必要なタイミングで仕事を進められるように、期限、優先順位、時間配分、進捗を調整することです。
「もっと急いで」ではなく、「いつまでに終える必要があるのか」。
「もっと効率を意識して」ではなく、「今日は何を優先する必要があるのか」。
「そこまで丁寧にしなくていい」ではなく、「どこまでできれば、この仕事は完了なのか」。
個人の時間感覚を変えるのではなく、組織として必要な仕事の基準を示すことが管理職の役割になります。
「100点」の基準も人によって違う
時間感覚だけでなく、「どこまでできれば十分か」という仕事の品質に対する基準も人によって異なります。
必要な内容が揃っていれば完成と考える人もいれば、もう少し詳しい情報まで調べたい人もいます。
後から見る人が困らないよう、できるだけ詳しく記録したいと考える人もいるでしょう。
つまり、それぞれが自分なりの「100点」を目指して仕事をしています。
さらに、「何を100点にしたいのか」も異なります。
記録を充実させたい人もいれば、患者さんとの対話に時間を使いたい人もいます。研究活動を重視したい人もいるでしょう。
どれも価値のある仕事です。
しかし、勤務時間には限りがあります。自分が重視する仕事だけに納得するまで時間を使っていれば、ほかの必要な業務が進まなくなる可能性があります。
本人の100点と、組織が求める100点は同じとは限らない
ここで管理職が考える必要があるのが、「組織として、どの仕事に、どこまでの品質を求めるのか」です。
本人が目指している100点が、組織として必要な100点とは限りません。
すべての仕事を120点にすることもできません。
限られた人員と勤務時間の中では、どこにリソースを投入するのかを決める必要があります。
その判断を一人ひとりの職員に任せるのではなく、組織として示すことが重要です。
管理職が示したい4つの基準
仕事の進め方を揃えるときには、少なくとも4つを明確にしておくと整理しやすくなります。
1つ目は「期限」です。いつまでに完了する必要があるのか。
2つ目は「品質」です。何を確認し、何を記録し、どの程度の成果を求めるのか。
3つ目は「完了基準」です。どこまでできれば、その仕事を終えてよいのか。
4つ目は「優先順位」です。ほかの業務との関係で、何を先に進める必要があるのか。
もちろん、すべての仕事について一律の時間や品質を設定することはできません。患者さんの状態や業務の難易度によっても、必要な水準は変わります。
それでも、「組織として何を求めているのか」をできるだけ明確にすることには意味があります。
すべての仕事を120点にする必要はない
私自身、以前勤務していた製薬企業で、PMDAによる実地調査への対応に携わったことがあります。
当時、管理職から示されていたのは「この業務は120点を目指す」という明確な方針でした。
目標は、PMDAから一切の指摘を受けないこと。そのため、この業務には可能な限りリソースを投入していました。
しかし、すべての仕事を120点にしていたわけではありません。
例えば、社内での検討や意思疎通のためだけに使う資料については、「60点でいい」と明確に示されていました。
見た目をきれいに整えることに時間を使うより、実地調査への対応にリソースを使う。その優先順位が組織として示されていたのです。
重要なのは、「仕事は常に高品質であるほどよい」と考えるのではなく、どの仕事にどこまでの品質を求めるのかを決めることです。
ただし「60点でいい」だけでは伝わらない
一方で、「この仕事は60点でいいよ」と言われても、職員からすると「何をすれば60点なのか」が分からないことがあります。
そのため、「そこまで丁寧にやらなくていい」とだけ伝えるのでは十分ではありません。
何を必ず行う必要があるのか。
どこから先は原則として行わなくてよいのか。
判断に迷ったときには誰に相談するのか。
ここまで具体化することで、初めて職員も安心して仕事を終えることができます。
「60点」「100点」「120点」という数字自体に意味があるのではありません。
その数字が意味する具体的な行動や完成状態を、組織として共有することが重要です。
丁寧すぎる職員には「終えていい基準」を示す
例えば、服薬指導記録について、必要な確認や記録はすでにできているにもかかわらず、さらに情報を調べたり、文章表現を何度も見直したりして、残業につながっているとします。
本人からすると、「後から見る人が困らないように、詳しく記録したい」という考えがあるかもしれません。
このとき、「そこまで丁寧にやらなくていい」と言っても、本人は納得できない可能性があります。
そこで、「次の担当者への引き継ぎには、どの情報が必要だと思う?」「その情報がなければ、どのような支障が出ると考えている?」と確認してみます。
追加の確認が本当に必要な場合もあります。一方で、すでに必要な情報が揃っていて、それ以上の作業によって得られる価値が小さい場合もあります。
大切なのは、本人のこだわりを否定することではありません。
「どこまでできれば、この業務は完了なのか」という基準を一緒に確認することです。
実は、丁寧に仕事をする職員ほど、「どこで終えていいのか」が分からず、時間をかけている場合もあります。
「ここまでできれば十分です」と管理職が示すことは、効率化を求めるだけでなく、本人が安心して仕事を終えるための支援にもなります。
仕事が早い職員には「求める品質」を具体化する
逆に、仕事は早いけれど、組織として求める品質に達していないケースもあります。
例えば、DIニュースや院内資料をすぐに作ってくれるものの、文章が読みにくく、何を伝えたいのか分かりにくい。
本人からすれば、「必要な情報は載せているし、早く配信した方がよい」と考えているかもしれません。
ここでも、「もっと丁寧に作って」と伝えるだけでは、何を変えればよいのか分かりません。
「このDIニュースを読んだ人に、何を理解してもらいたい?」
「必要な対応が一目で分かるようにしてほしい」
と、資料の目的や具体的な品質基準を示します。
必要なのは「丁寧さ」という抽象的な要求ではなく、業務の目的に照らして必要な水準を具体化することです。
「もっと早く」「もっと丁寧に」と求めることはハラスメントなのか
ここまでの話をすると、「職員にもっと早く仕事を終えるよう求めたり、もっと丁寧に仕事をするよう指導したりすることは、ハラスメントにならないのでしょうか」という疑問も出てきます。
業務上必要な範囲で、適切な方法によって期限や品質を示すこと自体は、管理職としての業務指示です。
例えば、「この業務はこちらを優先してください」「ここまでで終了してください」「この水準までは確認してください」と伝えること自体が、直ちにパワーハラスメントになるわけではありません。
一方で、必要な確認を省略しなければ達成できないような期限を設定する、そもそも達成困難な業務を押し付ける、人格や能力を一方的に否定する、威圧的な言動を繰り返す、といったことは別の問題です。
「何をしてほしいのか」という業務上の基準を示すことと、相手の人格や能力を攻撃することは分けて考える必要があります。
質か量かではなく「どこに、どこまで求めるか」を決める
「質を重視するべきか、量を重視するべきか」。
この問いに、すべての仕事に共通する答えはありません。
重要なのは、その業務の目的に照らして、「いつまでに」「どこまで」「何を優先して」行う必要があるのかを組織として決めることです。
時間に対する感覚も、仕事の完成度に対する感覚も、人によって異なります。
本人の丁寧さを尊重することと、仕事の品質や時間の使い方をすべて本人に委ねることは同じではありません。
「もっと早く」「もっと丁寧に」と抽象的に求めるのではなく、期限、品質、完了基準、優先順位をできるだけ具体的に示す。
そして、日々の業務の中で「ここまでは必要」「ここから先はやらなくてよい」「今回はもう少しここまでやってほしい」とフィードバックを繰り返しながら、組織としての基準を揃えていく。
限られた勤務時間の中で、どの仕事に、どこまでの品質を求めるのか。その判断を示すことも、管理職に求められる役割の一つです。