「前にも教えたのに、なぜできない?」後輩の行動を変える5秒フィードバック

2026年09月02日
お役立ち情報

「前にも教えたのに、なぜ同じようにできないのだろう」後輩や部下を指導していると、このように感じることはないでしょうか。一度説明したことは理解している。実際、その場ではできていた。それなのに、少し状況が変わると、また「どうすればいいですか?」と聞きに来る。こうした場面では、つい「もう少し自分で考えてほしい」「応用してほしい」と思ってしまいます。しかし、知識を持っていること、一度できたこと、そして状況に合わせて自分で判断できることは、それぞれ別の段階です。今回は、忙しい日常業務の中でもできる「5秒フィードバック」を使って、後輩が少しずつ自分で判断できる範囲を広げていく方法を考えます。

「褒めるフィードバック」と「行動を変えるフィードバック」は違う

短いフィードバックには、大きく2つの役割があります。1つ目は、モチベーションを高めることです。「ありがとう、助かったよ」「今日の対応、よかったよ」こうした承認や感謝を伝えることで、「またやってみよう」と思えるようになります。日常の関係づくりという意味でも、とても重要なフィードバックです。一方で、「次は、もう少しここを変えてほしい」「この部分は、次回も同じようにやってほしい」というように、次の行動そのものを変えたい場面もあります。その場合には、「よかったよ」で終わるのではなく、本人が次に何をすればよいのかが分かる情報まで返す必要があります。例えば、後輩が作成した資料に対して「今日の資料、見やすかったよ」と伝えれば、本人は「資料がよかった」ということは分かります。しかし、「情報を1枚に絞ったから見やすくなったね。次もこのくらいにまとめてみて」と伝えれば、「次回も情報量を絞る」という再現可能な行動まで分かります。これが、行動を変えるための5秒フィードバックです。

フィードバックは「次の行動を調整する情報」

フィードバックは、単に評価を伝えることではありません。相手が次の行動を調整できる情報を返すことです。「よかった」「違う」「もう少し考えて」だけでは、相手は次に何を変えればよいのか分かりません。そこで、「考え方は合っているよ。今回はここだけ変えてみて」「構成は前回と同じで大丈夫。今回は相手が違うから、最初に背景を1文追加してみて」というように、「そのままでよい部分」と「今回変える部分」を分けて返します。この一言があるだけでも、後輩は「全部間違っていたわけではない」「ここだけ調整すればいい」と理解できます。

一度できても「応用できる」とは限らない

なぜ、一度教えたことを別の場面で使えないのでしょうか。料理を例に考えてみます。料理初心者が、豚肉とナスを使った料理をレシピ通りにつくり、うまくできたとします。翌日、冷蔵庫を開けると、ナスはありますが豚肉がなく、鶏肉しかありません。料理に慣れている人なら、「鶏肉でも大丈夫だろう」「少し火の入れ方を変えよう」などと考えられます。しかし、初心者にとっては、「豚肉じゃなくて鶏肉でも同じでいいの?」「火加減は変えなくていいの?」「この状態で本当に火が通っているの?」と、一つ条件が変わるだけで新しい判断が必要になります。レシピに書かれている「中火」「少々」「味を整える」といった言葉についても、経験者にとっては当たり前でも、初心者には具体的な判断基準が分かりません。経験者は、レシピを覚えているだけではありません。目の前の状態を見ながら、「まだ水分が多いから、もう少し煮詰めよう」「火が強いから少し弱めよう」と、小さな判断を何度も行っています。つまり、初心者と経験者の違いは、単なる知識量だけではなく、「状況を見て、何を変えるか」という判断パターンの数にもあります。

「自分で試してみて」が難しい段階もある

応用力を高めるためには、当然、試行錯誤が必要です。しかし、初心者にとっては、この「試行錯誤すること」自体が難しい場合があります。何を変えればよいのか分からない。どこまで前回と同じ考え方を使ってよいのか分からない。間違えたくない。失敗したくない。その結果、「自分でいろいろ試してみよう」ではなく、「正解を知っている人に聞こう」となります。この状態の相手に「自分で考えて」とだけ伝えても、考えるための判断材料がまだ足りない可能性があります。そこで必要なのが、試行錯誤を始めるための小さなヒントです。「そこまでは合っているよ。今回はここだけ変えてみて」という5秒のフィードバックです。

病院薬剤部の日常業務ではどう使う?

例えば、後輩が院内スタッフ向けの研修案内メールを一度作ったことがあり、次に院外の医療従事者向けの案内メールを作ることになったとします。前回のメールを参考に作成して持ってきた後輩に、「うん、いいね」と返すだけでは、何がよくて、何を修正すべきなのかが分かりません。そこで、「構成は前回と同じで大丈夫。今回は院外の先生向けだから、最初に『なぜ今回ご案内しているのか』を1文入れてみて」と返します。別の例として、上司への確認メールは作ったことがあるものの、初めて他部署へ業務を依頼するメールを作るケースなら、「お願いしたい内容を書くところは前回と同じで大丈夫。今回は相手が背景を知らないから、依頼理由も1文足してみて」と伝えられます。薬薬連携のサマリーであれば、「基本は前回と同じで大丈夫。今回は初めて連携する薬局だから、入院中に薬が変更になった経緯を少し追加してみて」と返すこともできます。重要なのは、毎回すべてを教え直すことではありません。「前回と同じでよい部分」と「今回だけ変える部分」を短く伝えることです。

1回で完成させようとしない

後輩育成では、つい「一度教えたら次からできるようになってほしい」と考えてしまいます。しかし、本人の中に判断パターンが十分に蓄積されていない段階では、いきなり応用力を求めても難しいことがあります。そこで、「今回はここを変えてみて」「次はここだけ見てみて」「そこまでは合っているよ」と、小さな情報を繰り返し返します。すると本人の中に、「このケースではここを変える」「この条件が違うときは、ここを見る」という経験が少しずつ蓄積されます。やがて、似た状況に出会ったとき、「前にも似たケースがあったから、今回はここを変えればよいのではないか」と、自分で試行錯誤できるようになります。応用力は、「自分で考えて」と言われた瞬間に生まれるものではありません。小さな判断経験を積み重ねることで、自分で判断できる範囲が徐々に広がっていきます。

明日から使える5秒フィードバック

後輩が相談に来たとき、すぐに答えをすべて説明する必要はありません。まずは5秒だけ、「考え方は合っているよ。今回はここだけ変えてみて」「前回と同じで大丈夫。今回はここを追加してみて」「そこまではOK。次はここを確認してみて」と返してみてください。大切なのは、一度のフィードバックで完成させることではありません。本人が次の一歩を踏み出せるだけの情報を、小さく返し続けることです。その積み重ねが、後輩の「自分で考え、判断し、行動する力」を少しずつ育てていきます。