病院薬剤師の後輩・部下育成に使えるコーチング|3つの問いと実践方法
「部下に主体的に動いてほしいのに、なかなか動いてくれない」「アドバイスしても、同じことを繰り返してしまう」「本人に気づいてもらいたいけれど、どう問いかければよいか分からない」。病院薬剤部で後輩・部下を育成する中では、このような場面があります。
こうしたときに活用できる方法の一つがコーチングです。コーチングは、単に「質問する技術」ではありません。問いを通して相手の思考を引き出し、視点を広げ、本人が次の行動を考えられるよう支援する方法です。
この記事では、病院薬剤師の後進育成や面談で活用できるコーチングについて、ティーチングとの違い、3種類の問い、実際の対話の進め方まで具体的に解説します。
コーチングとは?ティーチングとの違い
後輩・部下の育成では、ティーチングとコーチングの両方を使います。ティーチングは、必要な知識や方法を「教える」関わり方です。一方、コーチングは、問いを使いながら相手自身の考えを引き出し、広げていく関わり方です。
例えば、必要な知識をまだ持っていない新人に対して、すべてを質問だけで考えてもらうことは適切ではありません。まず必要な知識や方法を教える必要があります。一方、ある程度の知識や経験があり、「本人なりに考えられるが、視野が狭くなっている」「次の行動を自分で決めてほしい」という場面では、コーチングが活用できます。
ティーチングとコーチングのどちらが優れているということではなく、相手の状態や目的によって使い分けることが重要です。
なぜ「他者からの問い」が必要なのか
「自分で考えればよいのでは」と思うかもしれません。しかし、人は無意識のうちに自分が考えやすい方向から物事を見る傾向があります。
例えば、仕事がうまくいかなかったときに「時間がなかったから」と考えれば、その原因だけに意識が向きやすくなります。しかし他者から「ほかに影響していたことはありますか?」「相手の立場から見るとどうだったと思いますか?」と聞かれると、それまで考えていなかった要因に目を向けることができます。
また、上司から「こうした方がいい」と言われるのと、自分自身が対話の中で「次はこうしてみようと思います」と話すのとでは、行動に対する本人の納得感も異なります。
コーチングでは、上司が答えを与えるのではなく、本人が自分の言葉で考え、気づき、次の行動を決めるプロセスを支援します。
コーチングで使える3種類の問い
コーチングで使う問いは、「何を聞けばいいか」をその場でゼロから考える必要はありません。問いの方向性を大きく3種類に分けておくと、日常の育成や面談でも使いやすくなります。
1.チャンクアップ:目的や本質に戻る問い
細かい問題に意識が集中し、何のために取り組んでいるのかが見えなくなっているときには、視点を一段上げる問いを使います。
例えば、「そもそも、この業務の目的は何だと思う?」「患者さんにとって一番大切なことは何だろう?」「理想的な状態はどういう状態?」といった問いです。
目の前の件数や手順だけに意識が向いているときに、「何のために行っているのか」へ視点を戻すために使います。
2.スライドアウト:別の視点から考える問い
本人が一つの見方にとらわれているときには、視点を横に広げる問いを使います。
例えば、服薬指導がうまくいかなかったときに、「患者さんの立場だったら、あの説明をどう感じたと思う?」「相手は何を心配していたと思う?」「もし別の方法があるとしたら何が考えられる?」と問いかけます。
自分とは異なる立場や、まだ検討していない選択肢に目を向けてもらうための問いです。
3.チャンクダウン:次の行動を具体化する問い
「頑張ります」「改善します」で対話を終わらせず、実際の行動まで具体化するための問いです。
例えば、「具体的に何から始める?」「いつやる?」「誰に相談する?」「誰と一緒に進める?」「明日できることは何?」といった問いです。
5W1Hを使って具体化していくと、「やろうと思います」という抽象的な意思を実際の行動へ変えやすくなります。特に組織の中では、「どうやるか」だけではなく「誰とやるか」まで考えてもらうことも重要です。
いきなり「考えさせる問い」を投げない
どれだけよい問いを用意しても、相手が話せる状態になっていなければ機能しません。
例えば、突然「あなたが理想とする薬剤師像は?」と聞かれても、相手は「なぜ今これを聞かれているのだろう」と戸惑う可能性があります。そのため、まず「今日は今の仕事について少し話を聞きたいと思っています」など、対話の目的を共有します。
そのうえで、「最近忙しいですか?」「休みは取れていますか?」「今の業務には慣れてきましたか?」など、比較的答えやすい質問から会話を始めます。
問いの内容だけではなく、相手が安心して考えを話せる状態をつくることもコーチングの一部です。
実際の面談ではどう進める?
例えば、「本人はうまくできていると思っているが、周囲から見るとうまくいっていない」というケースを考えてみます。
最初から「ここを直した方がいい」と指摘するのではなく、まず「今日は今の仕事についてあなたの考えを聞きたいと思っています」と目的を共有します。その後、「最近の業務はどうですか?」など話しやすいところから入り、本人の認識を確認します。
そこから、チャンクアップで「理想的にはどのような状態になっているといいと思いますか?」、スライドアウトで「指導を受ける側から見ると、今の関わり方はどう見えると思いますか?」、チャンクダウンで「では、次回は具体的に何を変えてみますか?」と進めます。
このように、目的を確認する → 視点を広げる → 行動を具体化するという流れを意識すると、単なる指摘ではなく、本人の気づきを促す対話にしやすくなります。
コーチングは「上司の正解」に導くためのものではない
コーチングをしていると、「最後は正しい答えに着地させなければ」と考えてしまうことがあります。しかし、上司があらかじめ決めている正解へ誘導するのであれば、それは本人に考えてもらう問いではなく、「正解当て」になってしまいます。
コーチングの目的は、上司の答えを本人に言わせることではありません。本人が自分の考え方を振り返り、これまで見えていなかった視点に気づき、自分で次の行動を決められるよう支援することです。
対話の最後に迷った場合は、「では、次に何をしますか?」「いつから始めますか?」「誰と進めますか?」とチャンクダウンし、本人が実際に動けるところまで具体化すると締めくくりやすくなります。
コーチングを使うときに押さえておきたいポイント
病院薬剤部でコーチングを取り入れる際は、次の点を意識すると使いやすくなります。
- 知識が不足している場合は、問いかける前に必要なことを教える
- 最初に対話の目的を共有する
- 相手が話しやすい質問から始める
- 目的に戻したいときはチャンクアップする
- 視点を広げたいときはスライドアウトする
- 行動につなげたいときはチャンクダウンする
- 上司が考えている正解へ誘導しない
- 問いかけた後、相手が考える時間を待つ
すべてを一度に使う必要はありません。まずは日常の会話で、「誰とやる?」「いつやる?」「最初に何をする?」など、行動を具体化する問いを一つ加えるところから始める方法もあります。
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コーチング以前に、「そもそも、どのような問いなら相手が考えやすくなるのか」を整理したい場合は、こちらの記事で詳しく解説しています。
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コーチングや問いかけは、後輩・部下の育成に必要なマネジメントスキルの一部です。実際の病院薬剤部では、任せ方、目標設定、フィードバック、コミュニケーションなどを組み合わせながら、一人ひとりの成長を支援していく必要があります。
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