令和8年度「薬剤部門マネジメントセミナー」で、持続可能な病院薬剤部の組織づくりについて講演しました

2026年09月01日
導入事例

病院薬剤部で、一度成果を出すことと、成果を出し続けることは同じではありません。
優秀な人が頑張ることで、一時的に成果を出すことはできます。
しかし、人が辞めても、新人が入っても、診療報酬や病院を取り巻く環境が変わっても、組織として成果を出し続けるためには、「誰かが頑張る」ことに依存しない組織をつくる必要があります。
さらにその先には、次の主任や係長、管理職が育ち、組織が自ら次の世代をつくっていく状態があります。

今回、令和8年度「薬剤部門マネジメントセミナー」にて、「限られた資源の中で、病院薬剤部をどう持続可能に運営するか」をテーマに、組織が動くメカニズム、成果が続く組織のつくり方、そしてリーダーが日常の中でできることについて講演しました。

組織は、全員が同じタイミングで動くわけではない

新しい取り組みや業務改善を始めるとき、「できれば全員に納得してもらってから進めたい」と考えることがあります。
しかし、同じ説明を聞いても、すぐに「やってみよう」と動く人もいれば、しばらく様子を見る人、「今のままでよいのではないか」と考える人もいます。
これは、単純にやる気の有無で説明できるものではありません。
これまでの経験や価値観、新しいことに対するリスクの捉え方などが異なるため、同じ変化に対しても、人によって動き出すタイミングが異なります。
講演では、ロジャースの普及理論を用いながら、組織の中には新しい取り組みに早く反応する人から慎重に判断する人まで、異なる層が存在することを整理しました。

「全員を動かす」より、「まず誰と動くか」を考える

全員の合意を得てから始めようとすると、どうしても最も慎重な人や抵抗する人への説明に、管理者の時間とエネルギーが使われます。
しかし、管理者自身の時間も限られています。
そこで重要になるのが、「誰を説得するか」ではなく、「まず誰と動くか」という視点です。
新しい取り組みに前向きな人や、周囲から信頼されている人と小さなチームをつくり、まず小さく試してみる。
そこで「やっても大丈夫そうだ」「この方法なら現場でもできそうだ」という実績が生まれると、それが慎重な人にとっての判断材料になります。
組織を動かすときに必要なのは、管理者が一人で全員を動かすことではありません。
まず誰を巻き込み、どこで小さな成果をつくり、その成果をどう次の人へ広げていくかを設計することが重要です。

最初から完璧な仕組みをつくらなくていい

新しい取り組みを始めるとき、「きちんとルールをつくってから始めなければ」と考えることもあります。
しかし、実際に動いてみなければ見えてこない問題もあります。
「どこまで自分で判断してよいのかわからない」
「失敗したときにどう評価されるのかわからない」
「このケースではどう対応すればよいのかわからない」
実際に取り組む人が増えることで、こうした行動を妨げる障害が少しずつ見えてきます。
そこで必要なのは、「なぜこの人はできないのか」と個人の問題として考えることではありません。
どこで行動が止まっているのかを確認し、権限の範囲を明確にする、評価のルールを整える、必要な業務手順をつくるなど、行動を妨げているものを一つずつ取り除いていきます。
最初から完璧なマニュアルをつくるのではなく、小さく試し、振り返り、改善しながら仕組みにしていくことが、変化を定着させるうえで重要です。

頑張ってくれる人ほど、ほったらかしになっていないか

組織を動かすとき、もう一つ考えたいのが、管理者自身が「誰に時間を使っているか」です。
現場では、問題が起きている人や、反対意見を持つ人、何度も説明が必要な人ほど、管理者との接点が増えます。
一方で、自分から動いてくれる人、頼んだことをきちんと進めてくれる人は、「この人は大丈夫」と思われ、関わる時間が少なくなりがちです。
しかし、それが続くと、「頑張る人ほど仕事が増える」「手を挙げた人が損をする」という状態になってしまうことがあります。
組織を持続的に動かすためには、問題がある人だけではなく、すでに前向きに動いている人にも、意識的に時間と関わりを配分する必要があります。

モチベーションを「上げ続ける」ことを目指さない

では、前向きに動いている人のモチベーションを、どう維持すればよいのでしょうか。
講演では、モチベーションについても整理しました。
人が何に意味を感じ、何によって動機づけられるのかは一人ひとり異なります。
成長することに意味を感じる人もいれば、新しいことに挑戦すること、患者さんに貢献すること、周囲と一緒に何かをつくることに意味を感じる人もいます。
そのため、全員のモチベーションを同じ方法で高めようとしても、うまくいくとは限りません。
さらに、本人が「やりたい」と思って始めたことであっても、モチベーションはずっと一定ではありません。
思ったような成果が出ない。忙しくなる。この方向でよいのかわからなくなる。
そうしたことが続けば、最初にあった「やってみたい」という気持ちも少しずつ弱くなります。
だからこそ、リーダーの役割は、メンバーのモチベーションをずっと高い状態に保つことではありません。
モチベーションが下がることを前提に、それでも行動を続けられる環境をつくることが重要です。

5秒のフィードバックでも、行動を続ける支援はできる

行動を続けてもらうために、毎回長い面談が必要なわけではありません。
講演では、日常の中でできる「5秒のフィードバック」についてもお伝えしました。
例えば、
「今日の資料、見やすかったよ」
「さっきの説明、患者さんに伝わりやすかったと思う」
という短い言葉でも、本人にとっては、自分の行動の何が良かったのかを知る機会になります。
人は、できなかったことには気づきやすい一方で、自分ができるようになったことは、意外と認識できていません。
周囲から「できていたこと」を具体的に返してもらうことで、「自分にもできる」「前よりできるようになった」という感覚が生まれます。
その「できる」「できそう」という感覚が、次の行動につながっていきます。
リーダーの関わりは、必ずしも長い時間を必要とするものではありません。
日々の小さなフィードバックの積み重ねも、人が行動を続けるための重要な支援になります。

人が動く土台には、「関係性」がある

そして、こうした関わりを支えているのが、日々の関係性です。
信頼関係は、一度の面談や声かけで突然できるものではありません。
約束を守ること、情報を共有すること、相手の考えを知ること、自分の考えを伝えること。
そうした日々の関わりが積み重なることで、「この人なら相談できる」「この人は自分のことを理解してくれている」という関係が少しずつつくられていきます。
組織を動かすことも、人を育てることも、その土台には人と人との関係性があります。
だからこそ、制度や仕組みだけではなく、日常の中でどのような関わりを積み重ねているかも、持続可能な組織をつくるうえで重要なマネジメントの一つです。

「誰かが頑張る組織」から、「成果が続く組織」へ

今回の講演では、病院薬剤部を持続可能に運営するために、大きく3つの視点から考えました。
一つ目は、全員を同じように動かそうとせず、「まず誰と動くか」を考えること。
二つ目は、すでに動いている人を「頑張れる人だから」と放置せず、日々のフィードバックを通じて行動が続く環境をつくること。
そして三つ目は、その土台となる関係性を、日常の関わりの中でつくっていくことです。
優秀な誰かが頑張ることで成果を出す組織ではなく、人が変わっても成果が続き、次のリーダーが育ち、組織自身が次の成果を生み出していく。

今回のセミナーでは、そのような病院薬剤部をどうつくっていくかを、参加された先生方とのワークやディスカッションを交えながら考えました。


pharmakeでは、病院薬剤部門での実践を通じて培った知見と、人材育成・組織開発に関する理論の両面から、それぞれの病院が抱える課題に応じた研修・伴走支援を行っています。
一時的な成果をつくるだけではなく、その成果が続き、次の人へ引き継がれていく組織をつくるところまで、病院薬剤部門の取り組みに伴走していきます。