「わかりました」で終わらせない「できた」につなげる関わり方のヒント
「説明したときには『わかりました』と言っていたのに、実際にやってもらうとうまくできない」後輩や部下を指導していると、このように感じることはないでしょうか。説明した内容は理解している。質問をすれば答えられる。それでも、実際の業務になると手が止まったり、少し状況が変わると「どうすればいいですか?」と聞きに来たりする。こうした場面では、「もう教えたのに」「そろそろ自分で考えてほしい」と思ってしまいます。しかし、「分かること」と「できること」は同じではありません。今回は、「わかりました」で終わらせず、後輩が少しずつ自分でできる範囲を広げていくための関わり方を考えます。
「教えるか、考えさせるか」の二択ではない
後輩育成では、「どこまで教えればいいのか」「自分で考えさせたほうがいいのか」と迷うことがあります。しかし、どちらか一方を選ぶ必要はありません。必要な知識をまだ持っていなければ教える。考え方が分からなければ、自分がやっているところを見せる。安全やルールに関わる場面では明確に指示する。そして、本人が考えられそうなところでは問いかける。実際にやってもらった後には、「そのままでよいところ」と「次に変えるところ」をフィードバックします。大切なのは、一つの関わり方に決めるのではなく、相手の状態や業務の状況に合わせて使い分けることです。
初めての人には「見せる」ことも必要
例えば、これまで一度も天ぷらを作ったことがない人に、「180℃くらいで、状態を見ながら揚げてね」と伝えても、初めての人には「状態を見る」とは何を見ることなのか分かりません。そこで、「このくらい泡が出たら食材を入れる」「衣がこの状態になったら引き上げる」と、実際にやって見せながら判断のポイントを伝えます。その上で本人にやってもらいます。もし、イカの水分が残ったまま油に入れようとしているのであれば、「どうしたらいいと思う?」と考えさせるより、「危ないから、まず水分をしっかり拭いて」と指示したほうがよいでしょう。任せることと、何でも本人に考えさせることは同じではありません。
病院薬剤部の日常業務ならどうする?
例えば、後輩に初めて薬事委員会の資料作成を任せるとします。「この薬、次回の薬事委員会用にまとめておいて」と言われても、初めて作る人には何をまとめればよいのか分かりません。そこでまず、「新しい薬を採用するかどうかを委員会で判断してもらうための資料だよ」と目的を伝えます。その上で、既採用薬との違い、有効性や安全性、費用、院内への影響など、判断に必要な情報を伝えます。過去の資料を見せるときも、完成形だけを渡すのではなく、「ここで既採用薬と比較しているのは、委員会の人が違いを判断できるようにするためだよ」と、なぜその情報を載せているのかまで伝えます。
できなかったら、すぐ答えを教えるとは限らない
一度目的や考え方を伝えた上で資料を作ってもらい、既採用薬との違いが整理されていなかったとします。その場合には、「この資料って、何を判断してもらうためのものだったっけ?」「このままだと、委員会の人は何を見て採用するか決められそう?」と問いかけることができます。一方で、締め切りが迫っている場合や、安全性に関わる重要な情報が抜けている場合には、「この部分は既採用薬との比較に修正してください」「この安全性情報は追加してください」と具体的に指示します。問いかけることが常に正しいわけではありません。考えてもらえる場面なのか、こちらが明確に伝えるべき場面なのかを見極めることが必要です。
「やって終わり」にしない
実際にやってもらった後には、結果を振り返ります。「既採用薬との違いは分かりやすく整理できていたね。次は、この薬を採用すると院内で何が変わるのかまで入れてみて」というように、「そのままでよいところ」と「次に変えるところ」を返します。すると本人の中に、「薬事委員会の資料は、薬の情報を並べるだけではなく、採用するかどうかを判断できるように整理するもの」という考え方が少しずつ残っていきます。そして次に似た資料を作るとき、その考え方を使ってもう一度試すことができます。
「できない人」ではなく、どこで止まっているかを見る
「ここまで教えているのに、なかなかできるようにならない」と感じることもあります。しかし、そのときは「本人にやる気がない」と考える前に、どこで学びが止まっているのかを見てみます。そもそも経験する機会が少ないのか。経験はしているけれど振り返っていないのか。振り返っていても、「できた」「できなかった」で終わっていて、次にも使える考え方まで整理できていないのか。あるいは、周囲が先回りしてしまい、本人がもう一度試す機会がないのか。「できない」という結果だけを見るのではなく、その前後を見ることで、必要な関わり方も変わってきます。
「できたこと」も振り返る
振り返りというと、「できなかったこと」や「次に直すこと」に目が向きやすくなります。例えば、1日に10個の仕事をして9個はうまくいったのに、1個だけミスをすると、帰り道ではその1個のことばかり考えてしまうことがあります。そのため、後輩との振り返りでは、「今週、できるようになったことは?」「前より少し早くできたことは?」「前は確認していたけれど、今回は一人でできたことは?」と、できたことにも目を向けます。「迷う時間が減った」「相談する前に一度自分で考えられた」といった小さな変化も、本人ができるようになったことの一つです。
できた理由まで考える
できたことが見つかったら、「なぜ今回はうまくいったのだろう」「前回と何を変えたのだろう」と、もう一歩振り返ります。例えば、他部署への依頼が前回よりスムーズに進んだのであれば、「今回は依頼内容だけではなく、背景も先に伝えたからかもしれない」と整理できます。すると、「他部署に依頼するときは、依頼内容だけでなく背景も一緒に伝える」という、次にも使える考え方になります。できなかったことを直すだけではなく、うまくいったことの再現性を高めることも、経験から学ぶためには大切です。
「わかりました」を「できた」に変える
後輩が「わかりました」と言えたことは、育成のゴールではありません。必要なら教える。分からなければ見せる。安全やルールに関わるなら指示する。できそうなところから考えてもらう。そして実際にやってもらい、フィードバックし、振り返って、もう一度試してもらう。こうした経験を繰り返すことで、少しずつ自分で判断し、行動できる範囲が広がっていきます。一度でできるようにするのではなく、「分かった」から「できた」へつながる過程を支えることが、後輩育成では重要です。